ぷかぷか日記

セロ弾きのゴーシュ

 オペラ「セロ弾きのゴーシュ」を観に行きました。20数年ぶりに見る舞台。役者も演出も変わっていましたが、歌は昔のままで、一つ一つが全部頭の中に残っていて、とても懐かしい気がしました。

 初演が1986年。たまたまカミさんがこんにゃく座の研修生だったこともあって、舞台の写真を撮らせて頂いたのですが、写真を撮るのも忘れるくらい面白かったことを覚えています。

 「セロ弾きのゴーシュ」は面白い作品ですが、オペラになると、一人で読むときの何倍も面白くなることを、このときの舞台で初めて知りました。歌の持つ力というものに出会った、といってもいいかもしれません。言葉が生き生きと飛び跳ねるというか、ダイナミックに生き始めるというか、言葉が作り出す世界が何倍にも広がった気がしました。「セロ弾きのゴーシュ」って、こんなに面白かったのか、って思いましたね。

 第2場で「すると外からはつかすぎの月のあかりがへやのなかへはんぶんほどはいってきました」と歌われる場面、月のあかりがぞくぞくするほどきれいに感じられました。これはやっぱり歌ですね。歌は魔物ですね。人をぞくぞくさせるほどの力を持っているのですから。

 このときのオペラとの出会いと黒テントのワークショップがその後の人生をグンと楽しいものにしてくれたように思います。

 とにかく面白くて、この「セロ弾きのゴーシュ」は当時勤めていた養護学校で4回も舞台で上演しました。4回とも全部違う生徒達と作りました。生徒が違うので、できあがった作品も全部違うものでした。

 

 作品の第2場で歌われる 

 

♪ 譜をめくりながら ひいては考え 考えてはひき、

 しまいまでいくとまたはじめから なんべんも なんべんも

 ごうごうごうごう ひきつづけました

 

の歌はチェロを弾く格好で歌うと、すごく気分が盛り上がる歌で、みんなで何度も何度も歌いました。

 チェロという楽器を知らない生徒もたくさんいたので、「セロ弾きのゴーシュ」の授業(秋の文化祭に向けて6ヶ月くらいやっていました)の一番最初にチェロの生演奏を聴きました。事務室の方でチェロを弾く方がいて、その方にお願いし、みんなの前でささやかな演奏会をやったのです。そもそもチェロがどんな音を出すのか、どんな風に弾くのか、それを知らないことにはセロ弾きのゴーシュが具体的にイメージできないと思ったのです。チェロも実際にさわらせてもらいました。

 どんな格好でチェロを弾くのか、どんな音が出るのかをしっかり頭に入れ、その格好でオペラの第2場の歌をみんなで歌ったのです。ここから「セロ弾きのゴーシュ」の授業が始まりました。

 

 作品の第4場で歌われる「てぃーちでぃーる」もよく歌いました。

 

 ♪  てぃーち でぃーる  たーち たば  みーち みつまみ  ゆーち ゆかるが

   いちちいしかー  むーち むちりがー  ななち ながはま  やーちやんばる

   くくぬちくらすい  とうーや うみなち  じっか さんびゃく

 

 のりのいい沖縄の数え歌です。竹のばちをかちかち鳴らしながら、みんなで踊りながら歌いました。

 

 作品の第5場で歌われる宮澤賢治の詩による「原体剣舞連」はゴーシュが朗々と歌う歌で、腹の底まで響くすばらしい歌です。歌っていいなってしみじみ思えるような、本当にいい歌です。

 ただ養護学校の生徒が歌うにはかなり難しい気がして、ここはネズミが登場するので、ブルーハーツの「リンダリンダ」を歌いました。ネズミはネズミでも、ドブネズミです。

 ♪ どぶねずみ みたいに うつくしく なりたい

   写真には 写らない 美しさが あるから

   リンダリンダリンダリンダ……

 この曲はみんなノリノリでしたね。

 

 第2場の猫が転げ回るシーンは坂田明のつまづきそうになるような派手なサックスの音楽を流し、みんなで転げ回ったりしました。このシーンをイメージして、模造紙20枚くらいを貼り合わせて、その上に箒でぐるぐる渦巻きを描き、その上にみんな一人一人が描いた猫の顔の絵を貼り付けました。みんな思い思いに貼り付けたので、あっちこっち向いた猫の顔が30個ぐらい、転げ回っている感じのダイナミックな背景画ができあがったのでした。 

 作品の最後は「第6交響曲」で終わるのですが、これは演奏できないので、みんなで「雨の音楽」を歌いました。林光さんの作曲で、なんだかとても元気がでる歌です。

 今から思えば他愛ない舞台でしたが、それでも生徒達は「セロ弾きのゴーシュ」を様々な角度から楽しんだ気がしています。歌ったり、踊ったり、演じたり、絵を描いたり、大道具を作ったり、1つの作品で6ヶ月、思いっきり楽しんだのでした。

 

 今日の公演でもらった「オペラ小屋」によると、「セロ弾きのゴーシュ」の初演をやった1986年は未だ座員が10人に満たない時代だったそうで、その頃の「必死さ」みたいなものが、初演の舞台にはあったなぁ、と今日の装いも新たにした舞台見ながら思いました。「林光歌劇場」は16日まで六本木俳優座でやっています。ぜひお出かけください。

 こんにゃく座のオペラと出会うと、人生が変わりますよ。それくらい面白いです。

http://www.konnyakuza.com/syusai.html

 

 

  

 

 

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