ぷかぷか日記

苦情の電話と希望の物語

 先日、通勤のバスでとても迷惑している、という苦情の電話が入りました。社会人も学生も、毎日一刻を争って通勤している。それなのにお宅に通っている人たちは、平気で横入りして、並んで待っている人たちはみんな迷惑している。始まりの時間を少し遅くするとかできないのですか?という電話でした。

 迷惑をかけていることについては謝罪しました。時々横入りしている利用者さんにはあらためて厳重注意しました。ご家庭にも連絡し、注意していただくようお願いしました。これでも改善が見られない場合は、ゆっくり出勤するのではなく、いつもより30分くらい早く出勤してもらうことも検討しています。

 ただ、いくらこういうことをやっても、絶対大丈夫、ということはあり得ません。ここから先はやはり社会に任せるしかありません。つまり、社会が彼らとおつきあいしていくしかないと思うのです。

 彼らは社会から隔離されているのではなく、社会の中で生きています。ですから、いつだって彼らと遭遇する機会はあります。遭遇したとき、彼らのことを少しでも知っていると、対応が多分違ってきます。今回も、順番を無視して横入りする彼らをその場で注意すれば済んだ話です。全く相手を知らないと、注意することも躊躇してしまいます。それでぷかぷかに電話してきたのだろうと思います。

 ただそれで問題が解決するか、というと、どうもそうではない気がします。

 バスに乗るときは列に並んで待つ、というルールを守らなかった彼ら自身の問題は確かにあります。ただ「彼らだけが問題」とする限り、今回のような「不幸な遭遇」は、どこまで行ってもなくなりません。今のこの社会の中でいっしょに生きているわけですから。

 「不幸な遭遇」は、お互い知り合う機会あれば、避けることができたと思います。そうであれば、お互い知り合う機会を作ることは、お互い気持ちよくこの社会の中で生きていく上で、とても大事なことになります。

 

 彼らとのいい出会いから始まった素敵な物語を紹介します。

 ある区役所での外販の売り上げが4年で10倍に伸びました。パンがおいしいことはもちろんあるのですが、スタッフだけで売りに行ったのではとてもこんなには伸びません。売り上げの底上げをしたのは、やはり利用者さんたちの、なんともいえない魅力でした。

 外販のある木曜日をとても楽しみにしているお客さんがたくさんいます。彼らのにぎやかな声を聞いただけで、「あっ! きたきた!」とわくわくするそうです。彼らと会って、何か話をするわけでもなく、ただひとことふたこと言葉を交わしたり、「やぁ〜!」って楽しそうにハイタッチしたり、リエさんに今日のおすすめを聞いたり、計算王子ことtuji-kunに値段を暗算で計算してもらったり、たったそれだけのおつきあいを、みんなとても楽しんでいるのです。

 どちらかといえば社会から疎外されている彼らと、毎週会うのを楽しみにしている人がいるって、なんかすごいことだな、と思うのです。しかも、そういう関係をスタッフではなく、彼ら自身が自然に作った、というところが、ほんとうにすごいと思うのです。

 こういう関係が広がっていけば、社会はお互いが生きやすい方向へ少しずつ変わっていきます。彼らがパンの販売をすることで、少しずつでも社会が変わっていくなら、これほどすばらしいことはありません。

 ある区役所でのパン販売は、そんな希望の物語を私たちに見せてくれたように思うのです。

  

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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