ぷかぷか日記

長机三つのお店が生み出す物語

 緑区役所で地場野菜を売る直販所の仕事を4月から引き受けることになりました。長机を三つほど並べただけの小さなお店です。野菜をただ並べて売るだけではなにも起こりません。でも、ちょっとだけ工夫すれば、そこには「あっ、おもしろそう」って思える、わくわくするような物語が生まれます。自然に人が集まってきます。ただ野菜を買いに集まるのではありません。野菜を買うことの先に、もっとおもしろいもの、もっとわくわくするものを見つけるからです。それが物語です。

 さて、長机三つの小さなお店はどんな物語を生み出すのでしょう。

 

 お店にはメッセージボードがあります。野菜を作る人たちと、野菜を食べる人たちのコミュニケーションボードです。野菜を作る人たちと食べる人たちが、まずはこのメッセージボードを通してお互い知り合います。

 野菜を作る人の顔写真、似顔絵を貼ります。自己紹介を書きます。趣味とか、好きな食べ物、一日の中でいちばん好きな時間とか…、野菜を作る人の人となりが見える情報です。「人と人とのおつきあい」を作る上で一番大事な情報です。「生産者と消費者」という固苦しい枠組みではなく、もっとやわらかくて泥臭い「人と人」とのおつきあいです。

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 野菜を作る思いを書きます。野菜を作る喜び、苦労、野菜を食べる人への思いなどです。ここに並べている野菜には作る人の「思い」がこもっている、ということを伝えます。

 「こんな人が作っている野菜なら安心」という関係が自然にできてきます。

 旬の野菜の紹介、今日のおすすめ野菜、今日の畑の様子(「トマトがいっぱいなっています」とか「雪が積もりました」とか「ネコがあそびに来ました」とか、畑の様子が目に浮かぶような話)など、毎回新しいメッセージを張り出し、野菜を買いに来る人が毎回楽しみにするくらいの内容を目指します。

 野菜を作る人たちが楽しんでメッセージを書かないと、読む側も楽しくありません。そのためにはリアクションが必要です。つまり野菜を食べた人の側からのメッセージです。

 「ほうれん草がしみじみおいしかったです」「トマトには昔のトマトの香りがしました」「生でばりばりかじってもおいしいですね」「今日の畑の様子、毎回楽しみに読んでいます」「今日のおすすめ野菜、とても助かってます」「自己紹介で阪神が好き、とありましたね。私も大ファンですよ」

 といったリアクションが出てくると、このお店はただの野菜直売所ではなくなります。人と人を繋ぐお店になります。コミュニティカフェというのが最近はやっていますが、そういう意味では「コミュニティ八百屋」ということになります。「え〜っ!区役所にコミュニティ八百屋ができたんだって?」なんて話題になります。区役所もやるじゃん、て株が上がります。

 

  機会を見つけて、生産者の畑を訪問するツアーも企画します。ただ見学するだけではつまらないので、草取りのような簡単なものから始まって、土起こし、田起こし、種まき、苗植え、田植え、稲刈りなど、ただ「体験」しておしまい、というのではなく、長くおつきあいのできる「時々仕事のお手伝いをする関係」もできたら、と思っています。田植えとか稲刈りとかは、すごく楽しいので、そんな楽しさを共有できる関係です。収穫祭、芋煮会、もちつき等々、楽しいこともいっぱいやりたいですね。

 要するにお互い顔の見える関係を作りたいのです。あの人が作るから安心、あの人が食べるから安全でおいしいものを作ろう、ってお互いが思えるような関係を作りたいのです。そして何よりも、この地域でいっしょに生きていく仲間としての関係です。

 

 そういうお互いを信頼する関係ができてくると、直売所で買った野菜を食べるとき、生産者の顔や、畑の様子が目に浮かんだりして、食卓がとても豊かになります。野菜のおいしさは、そのまま生産者の思いであることがわかってくると、食べることの意味がグンと広がります。

 作る人と食べる人が同じ地域にいる、そういったことが目に見える形でわかってくると、この地域に暮らすことに安心感が持てます。災害が起こったとき、いちばん困るのは食べ物のことです。同じ地域に食べ物を作っている人がいて、しかもその人をよく知っているということは、とても大きな安心感を生みます。

 知り合いの農家の方が「稲刈りが終わりました。これでまた1年、安心して生きていけます」とお便りをくれたことがあります。「これでまた1年、安心して生きていけます」という言葉の重さ。人は、本当はこういう安心の上で生きていくものだと思います。街に暮らし、食べ物を作っていない私たちには、せいぜい備蓄倉庫に何日分かの非常食があります、といった程度の気休めしかありません。

 そういったことを考えると、「同じ地域に食べ物を作っている人がいて、しかもその人をよく知っている」ということの意味がとてつもなく大きくなります。だからこそ、野菜を作る人と、それを食べる人の関係を丁寧に作りたいと思うのです。

 

 販売する地場野菜を使ったお惣菜を作って(「おひさまの台所」のスタッフが作ります)、野菜と並べて販売します。野菜の使い方がストレートにわかり、野菜を買う人の家庭の食卓を豊かにします。ふだんあまり目にしない珍しい野菜が出たときは、それを使ったお惣菜を一緒に並べることは、買う人にとってはとても助かります。単なる野菜販売が、食生活をより豊かにするような場所になります。

  障がいのある人たちが販売するので、ほっこりあたたかな雰囲気の販売所ができます。野菜を買いに来ただけなのに、ほっこりした雰囲気にふれ、心を癒やすことができます。それは「また行ってみたい」という気持ちを生みます。ぷかぷかと同じように「直売所が好き!」とか「直売所のファンです」という人が多分、増えます。お客さんが増えることはただ単に収益が増えることだけを意味しません。どちらかと言えば社会のお荷物のように社会から疎外されている障がいのある人たちのお店が、そんなふうに街の人たちに受け入れられるということは、ここには社会の「希望」が見えるといっていいと思います。お互いが気持ちよく生きていける社会への「希望」です。うまくすればですから、ぷかぷかの直販店は、そういう「希望」を生み出すお店になるかも知れません。

 

 長机を三つほど並べただけの小さなお店です。それでもやりようによっては、こんなにも楽しい、わくわくするようなことがたくさんできます。長机三つに収まりきらないほどの「新しい価値」を生み出します。4月から楽しみにしていて下さい。 

 

 

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