ルポ『命の選別』を読みました。
「命の選別」という気の滅入るような内容を扱った本ですが、それでもぐいぐい引きつけるものがあって、一気に読んでしまいました。この本を読んであらためて気づいたことがあります。どんなに困難な状況にあっても、人は生きていきます。人が生きていく時、そこには希望が生まれます。
医療先端技術の重い問題を扱った章は
「この春、絵瑠ちゃんは小学生になった」
の言葉で終わります。いっしょにお祝いしたいようなあたたかい気持ちになりました。
丁寧な取材によって生まれた希望を感じさせる本です。希望があれば、気の滅入るような現実であっても、私たちは明日に向かって生きていけます。
第1章 妊婦相手「不安ビジネス」ー新型出生前診断拡大の裏側
第2章 障がい者拒み「地価下がる」ー施設反対を叫ぶ地域住民
第3章 見捨てられる命ー社会的入院、治療拒否される子どもたち
第4章 構図重なる先端技術ーゲノム編集の遺伝子改変どこまで
第5章 「命の線引き」基準を決める議論ー受精卵診断の対象拡大
第6章 誰が相模原殺傷事件を生んだのかー人里離れた入所施設
第7章 「優生社会」化の先にー誰もが新たな差別の対象
終章 なぜ「優生社会」化が進むのかー他人事ではない時代に
恐ろしいほどの現実がここにあります。こんなにもひどい社会になっていたのかとあらためて思いました。放ったままにしておくと、もっとひどい社会になります。
どうしたらいいのか。私たちに何ができるのか。ここがすごく大事です。
ぷかぷかさん達は選別される側にいます。ですから彼らの働く福祉事業所としては他人事ではないし、放っておけないのです。
私はどこまでも彼らの側に立とうと思っています。崇高な理念ではありません。ただただ彼らのことが好きなのです。いっしょに生きていく。その方がいい、その方がトク!だと思っています。彼らと出会う場、出会う機会があれば、人は変われます。人が変われば、社会が変わります。そのことにつきると思います。
選別される側がかわいそう、というのではありません。選別される側の人たちは、実は魅力溢れる人たちだからです。彼らは、いることで社会を豊かにします。こんな人たちを選別し、排除することは、すごくもったいないことであり、社会がどんどん貧しくなります。
彼らといっしょに生きていくことは、社会を救います。
目次を見て下さい。たとえば第2章にある障がい者グループホームの建設に反対する人たちの問題は、もしそこに障害のある人たちと日々おつきあいしている人がいて「いや、障がいのある人たちも楽しいよ。いっぺん会ってみようよ」って提案し、反対している人達が実際に会うことになれば、反対運動は多分その根拠を失います。反対運動の根拠は、ただ彼らを知らないことから生まれているからです。
こんな人たちと一度でも会ったら、もう反対なんかできません。とがった心がいつの間にか丸くなります。
その章で紹介されている青葉メゾンの話。ここが立つ時も建設反対運動があり、それに対して施設側が機動隊を導入し、泥沼状態でした。私は友人と間に入ってなんとか話し合いで解決しようとしたのですが、反対する側も、施設を建てる側も、リーダーがひどすぎました。こじれた原因はこのリーダーの資質が大きかったと思います。
あれから20年。今地域の人たちと施設の人たちはとても仲良くやっているそうです。運営する人たちの努力が見えます。それでも、その一番の功労者は施設を利用する障がいのある人たちだったと思います。彼らの日々の姿が地域の人たちの心を少しずつほぐしていったのだと思います。
彼らは、いることで社会を豊かにします。それは今、ぷかぷかを運営していて、いちばん思うことです。
この本、ぷかぷかに何冊かおいておきます。手に取ってご覧下さい。ああ、これは他人事ではないな、と思ったらぜひ買って下さい。