ぷかぷか日記

昔がんになったときの話−8

 手術8日目。傷口の糸を抜糸しました。なんだかすっきりした気分。今日から流動食をとっていいといわれ、飛び上がりたいくらい嬉しい気持ちでした。手術以来、一滴の水も飲んでいなくて、点滴だけで生きていました。これだけで生きているんだから、点滴の中にはカロリーメイトのような濃縮された栄養が入っているに違いないと思っていました。で、ある日点滴の成分をみたのですが、塩化カリウムとか電解質とか、およそ情緒のないものばかりで、こんなもので自分は生きているのかと思うと、なんだかがっかりというか、変な気がしました。タカサキは塩化カリウムだったのかよ、って感じです。

 食事の前に看護婦からいろいろ注意がありました。1回の食事を2回に分け、それぞれ30分以上かけてゆっくりとよく噛んで食べること。間に1、2時間の休憩を取ること。重湯でもみそ汁でも、飲み込むのではなく、よく噛むこと。退院後も6ヶ月は食事療法を続けること。油物、繊維質、肉類はだめ。いい加減にしてると、腸閉塞を起こして救急車で病院に運び込むことになる等々、聞いているうちにだんだん気が滅入ってきました。

 それでもお昼が運ばれてくると、とたんにわくわくした気分になったあたりは体の正直なところ。重湯、スープ、カタクリ、ジュースがそれぞれコップに三分の一くらい入っていました。え?たったこれだけ?って感じでした。一週間の絶食分くらいは多めにくるのかと思っていました。でも、実際に食べる段になって、これくらいが精一杯ということが納得できました。

 スプーンにほんの少し重湯をすくい、こわごわ口に入れました。本当に「こわごわ」という感じでした。1週間、絶食しただけで、こんな風な気持ちになるのかとちょっとびっくりしました。

 懐かしいお米の味がしました。懐かしい、と思ってしまうくらいうれしい味でした。口に含んだまま、ゆっくりと噛みました。なかなかの味でした。重湯がこんなにもおいしいとは思ってもみませんでした。ゆっくり味わって噛んだ後、ゆっくりと飲み込みました。胃にじんわりしみて、突然グゥとかわいい音がしました。

「おお、お前、生きておったか!」

と、思わずおなかをさすってしまいました。ほんの一週間前、あんなにもバッサリ切られ、わずか三分の一の大きさになってしまったというのに、もうこうやって僕のために重湯を一生懸命消化しようとする小さな胃の「けなげな働き」にちょっと感動したのでした。

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