ぷかぷか日記

地域で関係を作っていく(養護学校キンコンカン-②)

 養護学校の教員をやっていた頃に出会った子どもたちの話です。

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 キィちゃんは小さな子が好きです。学校の近くを散歩してても、小さな子がいるとすぐに近寄っていって、キュッと抱きしめたりします。そんなときのキィちゃんの目はとってもやさしくて、ちょっと惚れ惚れするほどです。

 そんなキィちゃんが家の近くで小さな子どもの首を絞めたというのです。それを近所の人に言われ、それはキィちゃんのような子を一人で外に出すな、というような意味合いを含んでいて、お母さんはえらく落ち込んでしまい、キィちゃんをしばらく施設に入れるなんて言い出しました。

 キィちゃんが本気で首を絞めたのかどうかはよくわかりません。キィちゃんなりのやり方でキュッと抱きしめたつもりが、近所の人には首を絞めたように見えたのかも知れません。あるいはそろそろ思春期にさしかかったせいか、最近ちょっと気分が不安定で、時折理由がはっきりしないままクラスの友達にかみついたりつねったりしていたので、つい発作的に本当に首を絞めてしまったのかも知れません。

 いずれにしても近くにいた人が止めに入るなり、注意するなりするしかないと思います。そういうときにキィちゃんのような子どもとつきあったことがあるかどうかで、その時の対応はずいぶんと違ってきます。全くつきあったことがなければ、やっぱりびっくりして、「どうしてこんな子が一人で街を歩いているのか」ということになるでしょう。以前そのことで新聞に投書した人がいました。「どうしてこんな子が一人で電車に乗っているのか」と。

 キィちゃんの場合、お母さんの精神的安定のためにとりあえず短期間施設に入れるにしても、キィちゃんを取り巻く環境は何も変わりません。そこのところを変えていくことをやっていかない限り、また同じようなことが起こるだろうといったことをお母さんに話しました。

 隣近所のおつきあいの中で、さりげなくキィちゃんを見てくれているような関係。近所をキィちゃんが一人でふらふら歩いていても当たり前なんだよって思ってくれたり、あるいはお母さんが買い物に出かけたり、身体の具合が悪い時なんかに、ちょっとキィちゃんを預かってくれたりといった、そんな関係を少しずつ時間をかけて作っていかないと、これから先キィちゃんも大きくなるし、もっと大変になると思うのです。

 ところがこの「地域で関係を作っていく」といったことが、お母さんにはどうもうまく伝わりません。キィちゃんの面倒を見てくれるのはボランティアさんであり、ボランティアさんにはお茶菓子出したりお礼したりで、やたら気を遣うのでもういい、というのです。キィちゃんの面倒を見てくれるのはボランティアさんしかいないと考えてしまうのは、そのままキィちゃんの周りの関係の少なさを物語っています。それはまたお母さん自身の持っている関係の少なさだろうと思います。

 養護学校へ子どもをやっているお母さんたちは、概して自分の周りに持っている人間関係が少ない気がします。子どもに手がかかるので、もうそれだけで手一杯なのかも知れません。でも一番の問題はやっぱりお母さん自身の外の世界へ向かう思いだろうと思います。それがない限り、つきあうのは同じ学校のお母さん同士であり、教師です。何か問題が起こっても、そういう狭いつきあいの中でしかものが見えません。

 キィちゃんの事件は、その狭いつきあいの中では解決できません。キィちゃんの周りの関係を広げていく、あるいはお母さん自身がもっともっと自分の関係を広げていく中でしか解決は見つかりません。そこをどうやって広げていくのか。

 すごくむつかしいと思うのですが、そこと格闘することでしか展望は開けない気がします。格闘することで、キィちゃんはもちろん、お母さんの生きる世界もぐんと広がってくるように思うのです。なによりもキィちゃんと出会った人たちの世界が広がります。地域社会がちょっとだけ変わります。障害のある人たちがちょっとだけ生きやすくなります。

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 ちょうどキィちゃんの事件の少し前、こんな素敵な子どもたちを養護学校に閉じ込めておくのはもったいないと、日曜日、子どもたちを連れて外に遊びに行きました。それがきっかけで学校の外の人たちとのつながりがたくさんできました。『街角のパフォーマンス』にその時のことを書いています。こういう活動にキィちゃんのお母さんが関わっていれば、事件に対する対応も全く違ったものになったのではないかと思います。

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『街角のパフォーマンス』はオンデマンド版をぷかぷかで販売しています。店頭、もしくはぷかぷかのホームページから手に入ります。『とがった心が丸くなる』というタイトルで電子本にもなっています。アマゾンで販売中です。

www.pukapuka.or.jp

 

 リョーちゃんは駅でたった一人で「街角のパフォーマンス」(30年前の駅の風景)

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