ぷかぷか日記

けんちゃん

 養護学校で仕事をやっていた頃の話です。

 子どもたちといっしょに手製の紙粘土で大きな犬を作ったことがありました。何日もかかって作り上げ、ようやく完成という頃、子どもにちょっと質問してみました。

 「ところでけんちゃん、今、みんなでつくっているこれは、なんだっけ」

 

「あのね、あのね、あの……あのね」

「うん、さぁよく見て、これはなんだっけ」

と、大きな犬をけんちゃんの前に差し出しました。けんちゃんはそれをじ〜いっと見て、更に一生懸命考え、

“そうだ、わかった!”

と、もう飛び上がらんばかりの顔つきで、

「おさかな!」

と、答えたのでした。

 一瞬カクッときましたが、なんともいえないおかしさがワァ〜ンと体中を駆け巡り、

“カンカンカンカン、あたりぃ!”

って、鐘を鳴らしたいほどでした。

 その答を口にしたときの

“やった!”

と言わんばかりのけんちゃんの嬉しそうな顔。こういう人とはいっしょに生きていった方が絶対に楽しい、と理屈抜きに思いました。

 もちろんその時、

「けんちゃん。これはおさかなではありません。いぬです。いいですか、いぬですよ。よく覚えておいてね」

と、正しい答をけんちゃんに教える方法もあったでしょう。「先生」と呼ばれる人は大概そうしますね。

 でも、けんちゃんのあのときの答は、そういう正しい世界を、もう超えてしまっていたように思うのです。あの時、あの場をガサッとゆすった「おさかな!」という言葉は、正しい答よりもはるかに光っています。あのとき、あんな素敵な言葉に、そしてけんちゃんに出会ったことを私は幸福に思いました。

 

飛行機の絵

 アートフォーラムあざみ野で開催されている「スーパーピュア展」に行ってきました。障がいのある人たちのアート作品展です。

 いちばんわくわくしたのは、壁いっぱい、天井まで貼られた飛行機の絵。200枚くらいがびっしり貼られて、ブヮ〜ンと飛行機の爆音が聞こえてきそうでした。自宅近くの飛行場に毎日に用に通い、描いた絵だそうです。飛行機が好きで好きでしょうがないって気持ちがあふれていました。

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この写真、入院中のgottiに送りました。飛行機と電車の絵を見て、またむくむくと元気を出して絵を描いて欲しいと思います。

テツにはテツの人生が、私には私の人生が…

 養護学校で働いていた頃、テッちゃんという子どもがいました。テッちゃんは食事をするにも、着替えをするにも、誰かの手助けが必要でした。歩くときも一人では無理でした。そんなテッちゃんのお母さんが、ある日連絡帳に書いてきたことを今でも鮮明に覚えています。

 「私はテツがすべてという生き方はしていません。テツにはテツの人生が、私には私の人生が、という考えでいます。親子ともども同じ回転で人生を過ごしてしまう必要はないと思っています。」

 テッちゃんは自分でいろいろやったりする子どもではありませんでしたが、ただそばにいるだけでこちらの気持ちがほっとなごむような、そんなやさしい雰囲気を持っていました。そういう存在感がいいな、と思っていましたが、「テッちゃんの人生」までは考えませんでした。

 自分の子ども、しかも重度の障がいを持ち、何するにも手助けが必要な子どもの人生を自分の人生と並べながら語るお母さんに正直びっくりしました。子どもの人生を突き放して語れるだけの人生をお母さん自身が歩んできたのだと思います。

 お母さんは絵を描くのが好きでした。化粧品を買うお金があれば絵の具を買ったと言います。それくらい夢中になれるものを持っていました。でも、テッちゃんが生まれ、その世話に追われる中で、絵筆を折ったそうです。「折った」といういい方がとても印象に残りました。

 「折った」と語れるほどの人生をお母さんは歩んでいたのでしょう。だから「テツにはテツの人生が、私には私に人生が…」という言葉がさらっと出てきたのだと思います。

 

 学校では「個別教育計画」が、福祉事業所では「個別支援計画」なるものがありますが、そこには「本人の人生」へ寄せる思いなどといったものはまずありません。関わる人間の人生が見えるような気がします。

 

この1枚の写真は

 ぷかぷかが始まった頃、パン屋の店先で

 「おいしいパンいりませんか」

 と、一生懸命大きな声を出してお客さんを呼び込もうとしていた利用者さんの声がうるさい、と苦情の電話が入りました。

 こだわりの強い利用者さんが、お店の前を行ったり来たりしていると、

 「うろうろされると、お客さんが落ち着いて食事ができない。ここを通らないでください」

 と苦情を言われたこともありました。

 障害者の施設が街の中で増えていくのは不気味だ、などという人もいました。

 

 悲しくなるようなそんな言葉を投げつけられながらも、それでもここでやっていくしかなくて、ぷかぷかはおいしいパンを作り続け、お客さまがほっとくつろげるカフェスペースを提供し続けてきました。

 そして今日、誕生日会のさなか、お客さまの方から

 「利用者さんと一緒に写真を撮らせてください」

と、申し出がありました。

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 この1枚の写真は、今までの悲しくなるようなたくさんの話を、いっぺんにひっくり返してしまうような「力」があります。「新しい歴史」と言っていいのかも知れません。こういう関係が、あちこちで広がっていったら、お互いがもっともっと気持ちよく暮らせる街ができあがるんだろうと思います。

 

利用者さんと一緒に

 今日はけんたろうくんの1才の誕生会がありました。

 お父さんからのメール。

     歌や記念撮影、何よりもみなさんの心温まるサービス、

     「おもてなし」に感激いたしました。
 
 というわけで、利用者さんと一緒に写真を撮ることになりました。

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46,000円

 毎週木曜日に販売に行っている瀬谷区役所で、なんと46,000円もの売り上げがありました。今までで最高の売り上げでした。12時から始めて、1時間足らずの時間です。

 3年半前、初めて行ったときは、わずか5,000円の売り上げでした。それが3年半で9倍にもなったというわけです。この驚異的な伸びはなんなのだろうと思います。

 パンがおいしいことは、もちろん大きな要素ですが、でも、スタッフだけで販売に行っていたら、多分こんなにも伸びなかっただろうと思います。やはり利用者さんが一緒に販売している、ということが大きいと思います。

 彼らと週一回会うのを楽しみにしているお客さんがたくさんいます。彼らのにぎやかな声が聞こえると、「あー、来た来た!」と、わくわくすると言ってくれるお客さんもいます。

 こういう関係は全く予想外でした。外販を始める前の区役所との打ち合わせでは、とにかくパンを販売する、ということだけでした。ここで新しい出会いが生まれ、新しい関係ができるとは、誰も予想していませんでした。まして、そのことで売り上げが9倍も伸びるなんて、ほんとうにびっくりです。

 障がいのある人たちと一緒に働くのは難しい、と考えている人は多いと思います。でも、ぷかぷかでは、彼らといっしょに働くことで、パンの売り上げが伸びています。彼らがいるからこそ、パンの売り上げが伸びるのです。

 得しているのはぷかぷかだけではなく、パンを買いに来るお客さんも、得しています。パンを買ったついでに、なにかあたたかいものをお土産にしてかえるからです。パンを買いに来ることをこんなに楽しみにしているって、それだけで素敵じゃないかって思うのです。

 そんなことを、ものすごくがんばるわけでもなく、自然に作り上げた彼らに拍手!です。

 

 

0.5才 誕生会

 ぷかぷかカフェで誕生会がありました。大概は1才とか2才とか3才ですが、今日はなんと0.5才の誕生会でした。るなちゃん、ゆうまくん、ゆいかちゃんの三人です。

 お客さんも入れて、カフェスタッフみんなで「ハッピーバースディ」を歌いました。「あなたに出会えて良かったよ」っていう思いを込めて…

 ぷかぷかカフェでこんな素敵な出会いがあるって、いいですね。

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紅葉

 パン屋の近くの紅葉が、あまりにきれいなので、ほれぼれしながら写真を撮りました。秋の神様の色合いのセンスに、今更ながら驚きます。

 大変な日々を過ごされているgottiのお母さんにも、この紅葉の写真送りました。gottiと二人で

 「きれいだね」

っていいながら見て欲しいなと思いました。そう言い合える時間を今、大事に大事に過ごして欲しいと思うのです。

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一緒に働けたことに感謝

 ぷかぷかのスタッフからのメッセージです。ぷかぷかで働き始めてまだ1年足らずですが、gottiとの出会いで、いろいろ思うことがあったようです。

 

 誕生会での笑顔が見られて、嬉しかったです。
 私は、彼との時間は短いですが、こうやって、彼と彼の家族の人生、彼の周りの人たち の想いに触れていく中で、自分の人生をみつめているように思います。
 出会えたこと、一緒に働けたことに感謝です。
 これからも、希望を持って、応援したいです。

 

 おつきあいの期間は短くとも、こうやって周りの人たちにいろんなことを考えさせてくれるgottiに、あらためて感謝!です。

ねこのストラップ

  gottiの描いた猫の絵でストラップを作りました。ちょっと物思いにふけっているようなねこで、いい表情をしています。gottiもこんな気持ちで描いたのかなぁと思います。

 このストラップ、パン屋のカウンターにおいたとたん、三つ欲しいというお客さんがいて、びっくりしました。

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